伝統の中に自分自身の個性。酒津焼は、生活に和みと潤いを醸す。

  酒津焼の伝統ともいうべき海鼠釉の器にじっと目を凝らしてみる。厚くかけられた釉薬が、その色合いに幾重もの深みを生み出す。やや肉厚で堅牢なフォルム。だから壊れにくい、普段の暮らしに溶けこむ、どっしりとした落ち着き。それが酒津焼の魅力だ。
  酒津焼は明治2年、倉敷の豪商として知られた岡本末吉が鶴形山の麓に築いた阿知窯に由来する。昭和初期には、大原孫三郎の計らいで浜田庄司、河井寛次郎、バーナード・リーチなど、当時の民芸の指導的立場にあった芸術家たちの薫陶を受け、大量生産の日用雑貨から民芸の趣を備えた陶器へと新たな昇華をとげた。
  現在、酒津焼を受け継ぐのは、五代目・岡本 章とその長男・研作、次男の和明の三氏。
「大学を出て、その後は陶磁器研究所で学びました。幼い頃から父の姿を見ていたので、跡を継ぐのも自然な流れ、当然だと思っていました」と研作氏。陶磁器研究所での研修を終えると、すぐに倉敷へ戻り、作陶生活に入る。昭和57年の全国陶芸展入選をはじめ、各賞を立て続けに受賞。個展でも人気を博し、酒津焼の魅力をさらに高めていく。
「父に教えられたことですか? 実はあまりないんです。ただ取っ手作りに関しては、使う人が持ちやすい、使い勝手がいいものを作れと言われました。
そのあたりはバーナード・リーチ先生の考えも影響していると思います。日常で使う。その上に豊かさや和み、潤いは存在する。それが酒津焼の本質ではないでしょうか」。
  ロクロを回す研作氏。その所作は静かでよどみない。酒津焼に使う釉薬は約10種類。それぞれ焼きの温度が異なるとのこと。そのあたりの見極めは経験と勘だそうだ。「昔から作り続けているものもありますが、新しい作品にも挑戦したい」。温和な笑顔の向こうに陶芸家としての意志と誇りが垣間見える。

 

酒津焼
岡本研作

父である5代目、章氏と弟の和明氏とともに酒津焼の窯を守り続ける研作氏。工房横にある昔ながらの登り窯で年間約1200点の茶器、花器、食器等を焼き上げる。

酒津焼・岡本研作
倉敷市酒津2827
TEL.086-422-1962