ガラスは、一瞬々々が勝負です。毎日やらないと身には付きません。
吹きガラスを中心にカットやサンド・ブラスト(金剛砂を用いた彫刻)といった技法を駆使しながら、数々の作品を世に送り出すガラス作家の有松啓介さん。近年では、オリエント美術館からの依頼により、3~4世紀の古代ガラスの復元に取り組むなど、その研ぎ澄まされた技術と創作へのひたむきな姿勢は、多くのファンに支持されている。
「実は、武蔵野美術大学時代は、グラフィックデザインを専攻していたんです。ただ、何となく自分には向いていないかな、と思いつつ、ある日、たまたま手にしたのが『別冊太陽』。そこで特集されていたガラスを見て、その美しさに吸い込まれました。とにかく『これを自分で作ってみたい!』という意欲が湧いてきたんです」と語る有松さん。その後、東京ガラス工芸研究所、瑠璃庵長崎工芸館などを経て、三〇歳で自らの工房を岡山に立ち上げた。
「ガラスは一瞬々々が勝負です。休むと感覚が鈍るので休みの日も何か作っています。あと助手との呼吸も大切。今は家内に手伝ってもらっていますが、夫婦仲が悪いといい作品に仕上がりませんね(笑)」。
最後に、有松さんの制作工程を目の前で拝見した。窯の中で熱く溶けたガラスを1.5mほどの吹き竿の先に少し取る。素早く空気を吹き込み、わずかに膨らませる。再び窯からガラスを巻き取り、さまざまな道具でカタチを整え、また窯で熱し、整え、熱し、整え…を繰り返す。一瞬のよどみも許されない手作業の連続。さっきまで柔和だった有松さんの視線が鋭い。奥様と短い声をかけ合いながらの無駄のない所作。工房の空気が、凛と張りつめる。ガラスの第一人者と称される有松さんの「気」が作品に宿る瞬間。それは、まぎれもない職人の仕事だった。