刀身彫刻はあくまで脇役。刀に勝ってはいけない。

 「昔の人はすごいですよ。電気もない、機械もない、当然、道具もままならない。そんな状況でも、自分なりに工夫して見事な作品を作り上げる。私たちは恵まれています」と語る柳村仙寿氏。
 厳しい匠の世界に身を置く柳村氏ではあるが、その経歴は、それとは裏腹にかなりユニークである。コックとしてレストランを経営していた24歳の時、偶然のぞいた骨董屋で見た刀の鍔(つば)。氏曰く「戦慄が走った」という。
 「ただ作りたかった。金槌とタガネを持って毎日、トントントントン。ほとんど独学でしたね。レストランですか?そりゃあお客が減って…。店は閉めましたよ」と笑う柳村氏。
 始めて2年目、26歳の時、岡山県伝統工芸展に初出品、初入選。昭和63年には伊勢神宮式年遷宮の刀装金具など5種類を岡山県下でただ一人拝命。その後、平成6年には、今上陛下御奉納大神宝御剣金具の作成という大役も果たした。
 「食べられるようになったのが30歳の頃。家内ですか?何も言わなかったですね。言っても聞かないと思ったんでしょう」。
 刀身彫刻はあくまで脇役。刀に勝ってはいけない。刀を殺してはいけないと氏は言う。妥協の許されない匠の世界に生きる者だからこそ、柔和な眼差しを忘れない。氏はそんな稀代の「職人さん」だった。

実は趣味がドライブだとおっしゃる柳村氏。愛車はマジェスタのCタイプ。「岡山トヨタさんの岡南店で買ったんですよ。後ろ姿がシェパードに似ているでしょ。風格と威厳があって気に入ってます」。クルマの話になるとさらに熱を帯びる柳村氏でした。

日本美術刀剣保存協会会長賞を受賞した「滝不動」。表(写真右)には滝不動明王像の浮彫、裏(写真左)には見返龍鋤下高肉彫が施されている。