その人なりの美しさを引き出す。大切なのは品です。
「一番大切なのは、その人なりの美しさを引き出すこと。長い顔は短くはならない、丸い顔が四角にもならない。基本を大切にしながら、その人に合わせた理想型に近づけていく。そんなところでしょうか」。穏やかな物腰の中にも職人としての気骨を感じさせる結髪師の長谷川さん。結髪師とは、前髪、鬢(側頭部)、髱(後頭部)を分けてまとめた、いわゆる日本髪を結う職人。現在では、歌舞伎や演劇、花柳界などのほか、花嫁のかつらの結髪に携わっているが、なかでも稀少な花嫁のかつら専門の結髪師として岡山を拠点に全国で活躍しているのが長谷川さんだ。 「大学を卒業して、企業に就職、でももともと『モノを作ること』が好きでサラリーマンを辞めて美容師の母から結髪を学びました。二五歳の時ですね」。 その後、結髪師としてキャリアを積み、自らの工房を設立した長谷川さんは、かねてから考えていた「かつらの改良」に取り組む。「明るい茶色の髪のかつらを作りました。同時に顔型や頭身に合わせて、従来のかつらより小さく結い上げてアレンジしました」。一九九七年に発表したこのライトカラーの高島田は、和装花嫁の美に新境地を拓く傑作として注目を集めた。また「ヘアとメイクは一体」と考える長谷川さん。白塗りに赤い唇という旧来の化粧法を、ナチュラルな現代風に変えることを提言するなど、岡山のブライダルシーンにも大きな影響を与えてきた。 「大切なのは品。和装は日本の文化ですから」と最近の過剰な披露宴にも苦言を呈す。「以前、プロのモデルさんに『痛くないかつらは初めてです!』と言われた時はうれしかった。花嫁に苦痛を与えたらいけないですよね」と笑う。美しいだけではない、そんな心配りも一流たる由縁だ。
結髪師 長谷川実
1948年岡山市生まれ。大阪工業大学卒業。母・長谷川あつこから結髪技術を学ぶ。1986年「長谷川結髪工房」を設立。1997年ライトカラーの高島田を発表。 岡山市中区旭東町2-12-30 TEL.086-273-3338
愛用の結髪道具。ツゲ櫛は使い込んで飴色になっている。
髪型は、根元(後頭部で束ねた部分)を高く結い上げる文金高島田が最も格が高いとされる。