張り子の命は顔。玩具なんだから可愛らしくないとね…。

 「一番のポイントですか? そりゃあ、もう顔です。トラも干支も張り子は顔が良くなきゃダメ。そもそも玩具なんだから顔が可愛らしくないと…ウチのは顔がいいとよく褒められます」と笑う生水洋次さん。現在61歳、倉敷はりこの職人として、奥さまの二三子さんと二人三脚で制作に励む毎日だ。
 もともと倉敷はりこは、1869年(明治二年)に、洋次さんの先祖である生水多十郎氏が、男子の誕生を祝って作ったのに始まる。以来、農業のかたわら、近隣の人々の求めに応じて制作を続けてきた。1970年に倉敷が観光地として脚光を浴びると、倉敷はりこは土産物として一躍人気を博す。1987年には年賀切手の図案にも採用された。洋次さんは生水家に代々伝わる張り子技法の継承者。多十郎氏から数えて五代目にあたる。
 「26歳でサラリーマンを辞めて、張り子作りに専念することにしました。子どもの頃から父の仕事を手伝っていたので見よう見まねで作ることはできました。父からは特別に教えてもらうことはなかったですね。『一緒にやっていれば、自然に身に付く』と。実際、知らず知らずのうちに具合が分かるようになりました」。
 すべての世界で機械化が進む昨今。張り子でさえ機械を使って大量生産されるものもあるという。「張り子は型に貼って作るから張り子。和紙の柔らかみや凹凸、手作りじゃないと面白みがないでしょう」。創始から五代目、今も同じ技法を守り継ぐ生水さん。さらなる思いは?「手を抜かない。伝統が感じられるもの。飾ろうかと思ってもらえるようなものを作っていきたい」。職人とは思えない穏やかな物腰。張り子の干支のような優しい笑顔が印象的だった。

 

倉敷はりこ
生水洋次

1951年倉敷市生まれ。会社員を経て「倉敷はりこ」の5代目として制作に携わる。2004年日本民芸公募展優秀賞受賞。
倉敷市笹沖1202
TEL.086-422-3978

トラの張り子は大小12種類。同じ型を使っても、ひとつひとつ少しずつ違うのは手作りならではの味わい。水性絵具で着色し、ニスを塗ってツヤを出す。麻材のヒゲを植えたら完成だ。