背伸びせず、足元を見ながら、楽しみながら…
「まちおこし…なんてことはこれまで一度も考えたことないんです。古い家だから表にのれんでもかけようかって、なんとなく気軽に(笑)。その後、うちののれんを見た町内の方がオーダーしてくださって…。そうしたら『じゃあ、町内一六軒で作ろうか』と。一九年前のことです」と当時を振り返る加納さん。 かつては日本海と瀬戸内を結ぶ旧出雲街道の要として栄えた勝山。加納さんの生家はもともと造り酒屋。祖父の代には、この山間の町にドイツからネジ回し、中国から金継ぎ、ロシアから毛布など、様々な行商人がやってきたらしい。そんな町に生まれ育った加納さんが染織に出会ったのが大学生の時。 「短大を卒業後、東京で織物を教えていましたが、母の病気がきっかけで二九歳で勝山に戻り、家業を手伝うことにしました。家の仕事をしながら染めやはた織りは続けて、一九九七年に生家で『ひのき草木染織工房』を開きました。先程ののれんの話を続けると、『町並み保存事業を応援する会』をこの町で生まれ育った方々と作って、のれんのある町づくりを一九年間、続けています」。 今年で一六回目を迎えた「勝山のお雛まつり」の運営にも一役買っている加納さん。自分達自身が、無理に背伸びせず、足元を見ながら、楽しみながらやることが長く続いている理由かもしれないと言う。「勝山の人は本当に心根が優しいんです。慎み深くてシャイで…(笑)。楽しいことはみんなで分けていこう! という思いが町全体に漂っています。のれんが人と人、店と店をつなぐシンボルになれたらいいなと思っています」。どこまでも穏やかで和やかな笑顔だった。
染織家 加納容子
1947年勝山生まれ。女子美術短期大学を卒業後、29歳で勝山へUターン。1996年に勝山町並み保存地区にてのれん作りを開始。ひのき草木染織工房代表、勝山文化往来館ひしお館長。 真庭市勝山193 TEL.0867-44-2013
自然のモチーフだけでなく、新しい意匠にも挑戦を続ける加納さん。手にするのはご本人のお気に入り。