家具はあくまで脇役であって主役ではない。
「子供の頃から手を動かすのが好きでした。プラモデル作りとか(笑)。大学卒業間近に、漠然とものづくりをしていきたいと考えていました。結果、ものづくりを『職業』として教えてくれる学校で『木工』の道に進むことにしました」と穏やかに語る奥山さん。ちなみに奥山さんの母親は編物作家。「ものを作って生計を立てる」という意味では母親の存在が後押しになったと言う。 学校卒業後は助手として働きながら四年間、学校で木工に向き合う日々。転機は三〇歳で独立してから二年後(二〇〇四年)に開いた初の個展。 「作品が世に出たことで、それまでは自分のためだけに好きなものを作っていたのが、みんなが使ってくれるものを世に送り出そうと考えるきっかけになりました」。 そんな奥山さんが多用する木材はタモ材。主張し過ぎない、けれどもシンプルで美しく、堅くて強い。その木材の性質そのものが奥山さんの作品の本質を表現している。だからデザインも彼いわく「やりすぎていない」もの。家具はあくまでも生活の脇役であって、主役ではないというのが奥山さんの考えだ。 「もともと器用ではないんです。だからきっちり図面通りに作るのが性に合っています」。 だからゆくゆくは「引き出しに戻りたい」と彼は言う。 「最後は引き出しだけを作ってニコニコしていたいですね。僕にとって機嫌良く作れるのは、やはり引き出しなんです」。そう話す奥山さんの眼差しはモノづくりの神様に祝福された作り手の幸福感にあふれていた。これからの作品が実に楽しみだ。
木工作家 奥山貴之
岡山市出身。大学卒業後、倉敷高等技術専門校木工科に入学。30歳で独立、2004年に開いた初の個展で自信をつかむ。木が本来持つ木目を生かした木組みの美しさ、息の永い作品を送り出している。 お問い合わせ先 「奥山貴之商店」 倉敷市尾原6-1 TEL.090-4109-9519 okutakashouten@live.jp
巧みな木組みで形作られている引き出し。角は組み手と呼ばれる技法を用いる。美しさと丈夫さが奥山作品の特徴だ。