日常使いの器でも、自己表現はできます。

「大学を卒業した後は、中学校で美術の教師をしていました。バブル全盛の頃で、焼き物をコツコツ作って…という時代の雰囲気ではなかったですね」と笑うのは陶芸家の十河隆史さん。日常使いでありながらモダンさと温かさが感じられる、文字通り作り手の『手のにおい』がする作品が全国の多くのファンを魅了している。そんな十河さんが教師を辞め、陶芸一本で生きることを決意したのは教師になって六年目、二九歳の時。「自分の人生はこれでいいのか」との思いから陶芸家の道を歩み始めた。「当時は、形を優先して用途は二番目。自己主張の強いオブジェを作っていました。しばらくして自分の体質に合わないことに気が付いたんです。その後、器を作る作家さん達に出会って、自分も器を作ってみたいと思うようになりました」。普段使いの器を作るようになって、使い手から必要とされ、作った数だけ喜んでもらえることに震えるような充実感を覚えたという。その結果、「器でも自己表現はできる」と確信したそうだ。代表作のひとつである『ほっこり湯呑み』はお客さんからの「もう少し、ほっこりさせてください」というひと言があって生まれた。「試行錯誤の末、高さを抑えて径を大きくして底を絞ってみました。お客様のニーズがあったからこその作品です」。学生時代は陶芸よりも彫刻ばかりしていたという十河さん。「立体が好きなんです。だから器はそれ単体ではなく、テーブルなどその器が存在する空間そのものがひとつの作品だと考えています」。穏やかな笑顔で真摯に語りかける十河さん。作品のひとつひとつに人柄とセンスが息づいている。

ほっこり湯呑み(右)2,376円、刷毛目どんぶり4,320円、奥のドリッパー&ピッチャーは新作。

 

陶芸家
十河隆史

1966年生まれ。玉野市出身。岡山大学大学院修了(美術教育専攻)、滋賀県陶芸の森に研修作家として滞在。2000年築窯、独立。2007年工房を玉野市山田に移転。 スタジオ ティー ポタリー陶芸工房/陶芸教室 代表
TEL.0863-41-2240
http://t-pottery.com