「ときどき、夜中に一人で作業しているときに、ふと思うんですよ。かつて親父はこんな作業を一人でしていたのかって…。いなくなってみて初めて親父の偉大さがしみじみ分かりましたね」と語るのは、祖父の代から100年続く甲冑師の三代目・森崎干城氏。まだ44歳という若さながら、愛媛県の大山祇神社所蔵の紺糸威大鎧と、岡山県立博物館所蔵の赤韋威大鎧、その二領の国宝を復元製作するという偉業を達成している。
「26までは、東京の予備校で総務の仕事をしていました。この仕事を継いだのは、自然の流れでしたね。子どもの頃から鎧甲に囲まれて育って、そばにあるのが普通だと思っていました。友達の家に遊びに行って、この家は、なんで兜がないんだろうって不思議に感じたものです(笑)」。甲冑の復元製作とは、歪みも不揃いも含めて実物とまったく同じに再現しなくてはならない。膨大な数の部品はすべて手作り。かつては技を極めた職人達が分業で行っていた作業を、現在はすべて一人でこなす。「よほどの変わり者じゃないとできませんね」と笑う森崎氏。「親父は何も教えてはくれませんでした。ただ一度、病に倒れた入院先の病院から先生に無理を言って帰ってきて漆の溶き加減を教えてくれました。今日は一日付きあえって、夜中まで…」。
頑固な職人のイメージからは遠い甘いマスクの森崎氏だが、ときおり見せる鋭い眼光はまぎれもなく、父譲りの厳しい匠の目だった。