良質の珈琲は、適当に淹れても美味しいんですよ。

「留学先のカリフォルニアのカフェで飲んだ一杯の珈琲。日本では『アメリカン』といえば薄い珈琲のことですよね。でも実際は全然違う。あまりの美味しさに腰を抜かしました(笑)」と当時を振り返る猿川さん。ちなみにそのカフェとはのちのスターバックスのルーツとなった店とのこと。留学先のアメリカではカリフォルニア、テキサス、イリノイに滞在し、アメリカのカフェ文化の奥深さにどっぷりと浸る日々。帰国後、名古屋のカフェでバリスタとして働き始めたが、自分の理想とする珈琲にはなかなか近づけない日々。「だったら自分で作ろう」と二〇〇三年三〇歳の時、岡山市に自分の店をオープンさせた。「アメリカで学んだのは、品質の重要性。そして自分の嗜好に合わせた焙煎ではなく、素材を活かす焙煎の大切さを知りました。アメリカ人は老若男女、誰もが自然に珈琲を嗜みます。上手な飲み方を知っているというのか、ある種の文化ですね。ですから最も大切なのは、当たり前のことですが、気軽に美味しく飲むことです」。
 二〇〇七年には、岡山県で初めてアメリカスペシャリティーコーヒー協会のカップ審査員の資格(コーヒー豆の品質を格付けできるもの)を取得。その後、バリスタの世界大会の日本代表を決める二五名の審査員(二〇〇九年からは世界大会の公認)の中の一人にも選ばれるなど、活躍の場はさらに広がっている。「美味しい珈琲を飲むには、いい豆を使うこと。美味しいご飯を食べるなら、いいお米を使うのと同じです」。マニアのための店ではなく、普通の珈琲店でありたいという猿川さん。柔らかな笑顔の中の真剣なまなざしにプロの矜持を見た。

 

珈琲焙煎士
猿川裕介

内山下珈琲焙煎所カエル・オーナー。1973年生まれ、40歳岡山市出身。独自の珈琲観をベースに良質の珈琲を提供し続ける焙煎士。
内山下珈琲焙煎所カエル岡山市北区内山下1-2-8
TEL.086-226-9678

店名のKAERUは「原点に返る」の意味。こだわりの一杯のお値段はなんと380円、良心的。