墨は五色の色を出すんです。だから奥深くて面白い。

「墨は五色の『色』を出すんです。つまりその微妙な濃淡の加減が『色』。水墨画はシンプルですが、だからこそ奥深くて面白いんです」と柔らかな笑顔で語る豊田京子さん。豊かな自然に囲まれた真庭市久世のご自宅兼アトリエで自らの創作活動を続けながら、講師としても多くの生徒を指導している。
 豊田さんが絵を描くことに夢中になったのが小学校の頃。「六人兄弟の末っ子で夏休みの課題は蚊帳の中で描きました。六年生の時に七夕のゴザに描かれていた絵を自分なりに描いてみたら金賞をいただいたんです。ところが先生が『これはお姉さんが描いたんだろう(あまりに上手だったため)』と三等にされたんです。これには普段温厚な母も『家族が寝ている間に一生懸命描いていた』と言ってくれて誤解が解けました。その時のうれしさは今でも忘れられません」。
 そんな豊田さんだが本格的に絵を学び始めたのは五七歳から。会社を休職し、大阪の教室で絵手紙を学んだ。その後六〇歳から、多くの門下生に慕われ、指導者を育成する大谷南椛先生(津山在住)に水墨画の指導を仰ぐこととなった。
「退職してこれから好きなだけ絵が描けると思った矢先に主人が病に倒れて…(その後ご逝去)。それでも主人は『もっと水墨画を描きなさい』と逆に励ましてくれました」と感慨深げな豊田さん。今は良き伴侶に巡り会い、今年一〇月には古希を記念した個展、来年は絵手紙の「ありがとう展」を生徒さんと開催の予定。どこまでも自然体、明るく朗らかな人柄が作風の隅々に文字通りにじみでている。

 

水墨画講師
豊田京子
(南叶)

第5回全国水墨研究会合同展「優秀賞」、第13回(学)九州国際大学「理事長賞」など、多くの受賞歴を持つ。左の作品は、津山・中山神社の神木を描いたもの。花や木といった自然のモチーフが多い。
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水墨画教室
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