しっかり技術を磨かないと新しいことはできない。

 杢目金(もくめがね)をご存知だろうか。これは金属の色の違いを利用して木目の文様を浮かび上がらせる、日本独自の金工の技法。佐故龍平さんは、この杢目金の技法を駆使して花器や茶器、香炉、酒器、アクセサリーなど新しい造形に挑み続ける日本でも数少ない金工作家だ。
「数ある素材の中から金属を選んだ理由ですか? 大学の頃、オートバイに乗っていて金属を専攻すれば溶接技術も身に付いてバイクのパーツいじりにも役立つかな…くらいの気持ちでした(笑)」と当時を振り返る佐故さん。
 杢目金との出会いは、卒業制作を間近に控えた頃、岡山県立美術館で偶然見た杢目金の第一人者で人間国宝の玉川宣夫さんの作品。杢目金の技法を目の当たりにして「惹かれるものを感じた」と言う。その後、卒業制作で杢目金に初めて挑んだ佐故さん。結果的に大学が工芸代表作品として買い上げるほどの出来栄えとなった。
「ただその後進んだ大学院での修了制作は大失敗。要は確固たる技術もないのにカッコだけつけていたんです」。
 そうした経験を経て佐故さんは「しっかり技術を磨かないと新しいことはできない」と痛感、改めて取り組んだ修了制作の作品は見事、日本伝統工芸展初入選。さらに、翌年には入賞の栄誉に輝いた。
 最後に「工芸の一番の魅力は?」との質問に佐故さんはすかさず「素材」と答えた。「確かに金属は制約も多く、作る大きさにも限界があります。でもそれが工芸の世界。それでも杢目金から生み出す模様は自由で無限大なんですよ」と穏やかに笑う佐故さん。その表情に佐故さんの揺るぎない創作意欲を垣間見た気がした。

 

金工作家
佐故龍平

1976年玉野市生まれ。広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科卒業。同大学大学院芸術学研究科博士前期課程修了。2003年岡山県玉野市に工房を構える。2010年岡山市北区御津に工房を移転。日本工芸学会正会員。
お問い合わせ先
岡山市御津
TEL.086-737-1019
http://www.sakoryuhei.com/

色の違う金属を幾重にも重ねてプレスし、一枚の地金にする。鍛金して形成していく過程で模様が浮き上がってくる。