「普通のコップを十年作りなさい」と言われました。

「もともとは絵描きになりたかったんです。でもある日、平面の向こう側はどうなっているんだろう? と気になりだし、工芸の道を選択しました」と語る石川さん。一九三センチという長身、長い髪を束ね、人懐っこく語りかけるその姿は俗に言う「作家」のイメージを払拭する。
一見、豪放磊落に見える石川さんだが、その手が生み出すガラスの器は素朴ながら実に繊細な面持ち。「ガラスを選んだのは素材として昔から好きだった鉄に一番近いから。大学の先生に『君のような自由奔放な子はどこに行ってもダメだけど、工芸(ガラス)の道ならば、きっと好きなことができる』と言われ、ガラスを専攻したんです」と笑う。
 大学二年の時、ガラス工芸作家である小谷真三氏と出会う。「先生はごく普通の気のいいおじさんといった雰囲気。私がバイトしていたバーに飲みに来てくださったり、私が始めた洋服屋でシャツを買ってくださったり…。何て言ったらよいのか、とにかく心が広くカッコいい大人でしたね」。
 そんな小谷氏が大好きだった石川さん。卒業後は小谷氏の鞄持ちでも、と考えていたが小谷氏からは意外な言葉が…。「あなたは一人でやりなさい」。結果的に最も厳しい道を歩く事になったが、それが一番正しい道だったと石川さんは振り返る。
「その時、先生には『普通のコップを十年作り続けなさい』とも言われました。周りには反対されましたが普通のコップを十年間作り続けた結果、それが私の代表作になったのです」。
 今は自らの工房で職人と共に作品づくりに励む日々。ガラスの可能性を作品を通じて広げる石川さん。今後の活躍が実に楽しみだ。

石川昌浩さんの代表作といっても過言ではない網目コップ。ハチミツ色と呼ばれる澄んだ薄い金色が美しい。

 

ガラス作家
石川昌浩

1975年生まれ。東京都出身。倉敷芸術科学大学ガラス工芸コース卒業。旧清音村に共同制作窯を築炉し制作を始める。2002年日本民藝館展初出品初入選(以後、毎年入選)。2003年共同制作窯を解散し、石川硝子工藝舎と改名。2008年早島町に工房本宅共に移転。
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