硯は石が命。石の良さを上手に引き出すのが私の仕事です。

  山口県の赤間硯、宮城県の雄勝硯、山梨県の雨畑硯と並んで全国に名高い勝山の高田硯。原石は景勝地・神庭の滝近くの通称『硯山』から採掘される稀少な黒色粘板岩。『金眼銀糸』と呼ばれる金色の斑点と白線を含む、そのきめ細かい肌は顕微鏡で見ると表面の粒子が下ろし金のような状態でしっかりと立っている。そのため墨のおりがよく、硯の石の色が混ざらないため、墨色が鮮明に出るという。その類い希な品質から江戸時代には将軍家へ。明治以降は皇族へ献上された。文豪・谷崎潤一郎が勝山に疎開中、名作『細雪』を執筆する際に使ったのも、滞在先の宿で借りた高田硯だった、かの宮本武蔵も愛用していたという説もある。
現在、この高田硯造りの技を受け継ぐのは『石真中島硯店』の三代目・中島健夫さんただ一人。「激減する硯職人の先行きに心を痛めていた祖父が、硯山を買い戻して本来の家業から硯店へ転業しました。二代目の父は私が17歳の時に他界。職人の世界に入ったのは19歳の時です。最初は試行錯誤の連続。ものになるのに五年かかりました」。
  工程のほとんどは地道な作業の連続。何よりも根気と集中力が要求される。長年愛用する丸鑿と平鑿に体重をかけ無心に彫る。繰り返すと寒さの厳しい冬の勝山でも、汗びっしょりになるという。
「硯は石が命です。だから作るときは石の自然な形や個性をなるべく生かすようにしています。残すところと残さないところ。その見極めが大切です」。いい硯は幾世代にわたって使えるという。職人となって30年。中島さんは淡々と今日も彫る。

 

高田硯
中島健夫

静けさ漂う美しき高田硯。石の層が重なる縦彫りは硬くて難しいとのこと。原石の自然な形を生かす中島さんの硯は値段も手頃。大切に扱えば、孫の代まで使える。
石真中島硯店
真庭市勝山289
TEL.0867-44-2045