備中漆独有の透明感が、赤と黒の色と深みを生かしてくれます。

  漆芸の世界に描蒟醤(かききんま)という技法がある。生み出したのは、岡山県重要無形文化財保持者の故・難波仁斎氏。いわゆる加飾技法のひとつで、朱漆で文様を描き、透明の透漆を塗って仕上げるというもの。蒔絵(まきえ)や沈金(ちんきん)、螺鈿(らでん)などのような華やかさはないが、精緻で奥深く、スッと吸い込まれるような美しさがある。
 総社市在住の塩津容子さんは、日本でただ一人、描蒟醤に取り組む漆芸家。その独自の作風は、各方面から高い評価を得ている。「私は、筆一本で表現する描蒟醤のシンプルさに引き込まれたんです。シンプルだから規制がない。制約がない。自由なんですね。それだけに一筆一筆が大切になってきます」
 もともと描蒟醤は、岡山が世界に誇る「備中漆」の優れた特性にふさわしい技法をとの思いから生まれたもの。深みのある透明感は、他の漆にはない光沢を秘めている。
   「備中漆の素晴らしさを独自の技法で引き出した難波先生は、すごい。実際、赤と黒だけで色と奥行きを表現する描蒟醤には、透明度の高い備中漆が欠かせません。普通、時間が経てば色は落ちるものですが5年、10年と歳月を経るほど、透明度が増すのは、備中漆ならではですね」。もともと嫁ぎ先が木彫を家業としていたことがきっかけで、この世界に入った塩津さん。最近では、素地作りも自ら行っている。「ハート型のボディを作ったんです。備中漆はカーブと相性がいいんですよ」。伝統工芸の世界にしなやかな風を運ぶ塩津さん。その筆から生み出される作品は、時を超えて輝きを増している。

 

漆芸家
塩津容子

昭和22年、総社市生まれ。昭和55年、岡山県美術展初入選。昭和57年、漆芸家山口松太(県重要無形文化財保持者)に師事。平成3年、日本伝統漆芸展初入選、以降連続入選。平成4年、日本伝統工芸展初入選。平成19年、日本伝統漆芸展日本工芸会賞受賞。

スッ、スッと朱漆を含んだ筆をしなやかに伸ばす塩津さん。
「備中漆は生き物なんです。温度と湿度で乾きや伸びがまったく変わります」。ちなみに愛用の筆は人間国宝の方に依頼したという特注の品。高額だが描き味は最高とのこと。