ひとつの作品に一〇〇日。九五日は悩んでは壊すの繰り返しです。

  「彫刻を始めた、そもそものきっかけは、大学に入って何を専攻しようか迷っていた時に、ある先輩に『絵画や工芸はいつでもできるが彫刻はそうはいかない。環境が整っている今しかできないぞ』と説得されたのが発端でした。ただ後で考えてみると彫刻は肉体労働なんですよ。先輩にしてみれば力仕事させる後輩が欲しかったんでしょうね」と笑う時光さん。とはいえ偶然にもその時、生涯の師となる蛭田二郎氏に出会うこととなる。「先生は何気なく、音楽や本など、彫刻以外の勉強の大切さを教えてくれました。芸術家として社会との関係性、スタンスを学べということだったのかもしれませんね」。
  大学院を修了後、養護学校の教師となった時光さん。代表作ともいえる「兵士シリーズ」は、二〇〇八年第三八回日彫展で「トルソ・腰掛けた兵士」が最高賞の北村西望賞に輝いた。「兵士像を作るきっかけは、養護学校時代に担任した一人の男子生徒との出会いに遡ります。彼は身体的にも家庭的にも過酷な運命の下で懸命に生きていましたが、結果的に私は無力で、彼を苦しみから救うことができませんでした。自分自身への不甲斐なさ、やり場のない憤り、そして言葉にならない彼へのエール…。そうした感情が心のどこかで発酵して、最初の兵士像「土の男」へと結晶しました」。ひとつの作品を完成させるのに約三ヶ月。一〇〇日のうち、九五日は悶々と悩んでますと笑う時光さん。
情と念に裏付けされた直感とクールともいえる客観性。優しい眼差しの時光さんの魂の二極が、作品の圧倒的な質と量を生み出している。

 

彫刻家
時光新吾

1961年生まれ。1996年:第26回日彫展「日彫賞」受賞、第28回日展「特選」受賞。2008年:第38回日彫展「北村西望賞」受賞。2009年:第41回日展審査員。現在、倉敷芸術科学大学大学院教授、日展出品委嘱、日本彫刻会運営委員


土の男


トルソ  -腰かけた兵士-

時光新吾彫刻展
-軌跡を描く兵士たち-

4月24日(土)〜5月16日(日)
加計美術館(倉敷美観地区)
9:00〜17:00
(入館受付は16:30まで) 休館日:月曜
(祝日は開館)

入館料:一般300円、学生200円、高校生以下無料

兵士シリーズの端緒となった、1988年の「土の男」から新作「傷ついた戦士」まで、時光新吾氏が一貫して制作で問い続けてきた「死生観」の軌跡でもある、23点の彫刻作品を展覧。作者自身の足跡と、今後の展開に思いを馳せた試作をご高覧ください。